立場は違えど、どんな仕事をしていてもお客様はいる。
やってあげたいと思うこともあるはずです。
それが、お客様の満足につながり、結果として自分の仕事にも返ってくることがある。
だからこそ、断るときは心が痛む。
断ったことを、いつまでも考えてしまうこともある。
わかるんです。
私も、山の上の小さな宿を経営しています。
できることなら、お客様に寄り添っていきたい。
「こういうものが欲しい」と言われれば、あればお出ししますし、「ここに行きたい」と言われれば、道を調べます。
できる範囲で、できることをしてあげたい。
それは、今でも変わりません。
ただ、どこまで応えるべきなのか。
これが難しい。
優しさと仕事の境界線
例えば、美容師さん。
予約のお客様が来られなくなった。
急な事情なら仕方がないと思うかもしれません。
でも、その時間に予約を入れたかった別のお客様を断っていたら?
空いてしまった時間は、あとから取り戻せるのでしょうか。
例えば、飲食店。
お客様のために、特別な料理を用意してあげたい。
アレルギーや好みに合わせて、できる限り対応してあげたい。
でも、どんな要望にも応えていたら、仕入れや仕込み、スタッフの負担はどうなるのでしょう。
例えば、頼まれると断れない人。
職場で誰かが困っていると、つい自分の仕事を後回しにして手伝ってしまう。
最初は感謝されるかもしれません。
でも、それが当たり前になって、自分だけが苦しくなってしまったら?
誰かを助けることは、悪いことではありません。
むしろ、素晴らしいことだと思います。
ただ、助ける側にも時間があり、体力があり、生活があります。
どこまで応えるのか。
どこからは断るのか。
この線引きは、仕事をするうえで避けて通れない問題なのかもしれません。
私の場合は、キャンセル料が発生する期間のキャンセル。
お客様にも、それぞれ事情があります。
「ハイキングをしてから泊まりたいので、雨が降ったらキャンセルしたい。」
気持ちはわかります。
山を歩くなら、天気は大切ですからね。
ただ、天気予報は突然変わることもあります。
雨が降るかもしれないから、とりあえず部屋を押さえておく。
これでは、宿としては困ってしまいます。
ですから、そのままお伝えします。
それでも予約していただけるのであれば、キャンセル料が発生することも了承していただいたうえで、お受けします。
そういえば、去年初めて言われたなぁ。
「寒いからキャンセルしたい。」
いやいやいやいや。
寒いからって……。
これは、キャンセル料をいただきます(笑)。
そして、ここからが本題です。
「子どもがインフルエンザにかかってしまいましたので、明日の予約はキャンセルお願いします。」
これは、心が痛い。
自分も親ですから、子どもが病気になったときの大変さはわかります。
もちろん、お子さんが病気になってしまったご家庭を責めたいわけではありません。
自分も親ですから、その大変さはわかります。
ただ、事情があるのはお客様だけではありません。
お互いの事情を考えながら、どこかで線を引かなければ、商売を続けることができないのです。
無理して旅行に来てください、なんて言えるわけもありません。
でも、宿の経営という立場で考えると、事情は少し違ってきます。
食材は、すでに仕入れている。
シーツは、クリーニングに出している。
アルバイトもお願いしている。
明日の予約をキャンセルされても、ここから新しい予約が入ることは、まずありません。
お客様にはお客様の事情がある。
こちらにも、こちらの事情がある。
そして、こちらにも家族がいて、生活があります。
この葛藤を、10年間続けてきました。
かわいそうだから、今回はいいですよ。
そう言ってあげたい気持ちもあります。
でも、それを繰り返していたら、どうなるのか。
私は、ひとつの線を引きました。
交通機関が止まるなど、台風や災害によって来られない場合は、キャンセル料をいただかない。
それ以外は、基本的にキャンセル規定に従っていただく。
子どもの病気であっても、同じです。
もちろん、冷たい人間だと思われるかもしれません。
「まだ行ってもいないのに。」
「子どもの病気なんだから。」
そう言われたこともあります。
キャンセル料を払っていただけなかったこともあります。
それでも、どこかで線を引かなければならない。
相手の事情を理解することと、相手の要求をすべて受け入れることは違います。
頭ではわかっていても、実際に断るとなると難しい。
相手が困っているのなら、助けてあげたい。
少しくらい無理をしてでも、何とかしてあげたい。
そう思うこと自体は、悪いことではないと思います。
でも、
優しさを続けるためには、自分の生活も守らなければならない。
無理をして相手に合わせ続けた結果、自分の商売が続けられなくなってしまったら?
それは、本当に優しさと言えるのでしょうか。
もちろん、何でも規則どおりにすればいい、という話でもありません。
目の前の相手を見て、できることを考える。
その気持ちは、これからも大切にしたいと思っています。
ただ、優しさには、線引きも必要なのだと思います。
相手のために、どこまでできるのか。
自分が無理をすれば、どこまで応えられるのか。
そして、その無理を、いつまで続けられるのか。
優しさと経営。
このふたつを両立させるのは、簡単ではありません。
10年間、商売を続けてきても、まだ答えは出ていない。
今日も山の上で、そんなことを考えています。

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