山の上の経営録 ❘ ⑥〜虫編〜鬼気迫る

ペンション経営

山の上にいると、虫問題は常にまとわりついてきます。

カブトムシやクワガタばかりなら、お子様にも楽しんでいただけるのですが……

実際には、皆さんがあまり歓迎しない虫たちもいます。

ムカデ、ヤスデ、ゴキブリ、ハチ、カメムシ。

山の上ですから、当然といえば当然なのですが、やっぱり出ます。

部屋の外にはムカデ駆除剤をまいたり、できる限りの対策はしています。

それでも、入ってきてしまう虫たちはいるんです。

気をつけてはいるんですけどね。

そんな虫たちとの戦いの中で、こんな出来事がありました。

—スカイペンションどうだんでは、お食事はお客様ごとに個室をご用意しています。

ある日の朝食。

朝食の時間は7時30分。

「7時30分になりましたら、こちらのお部屋にいらっしゃってくださいね」

と、前日にご案内していました。

そして、朝7時25分。

朝食の準備が完了しました。

あとは、お客様をお待ちするだけです。

そのときでした。

ブ〜〜〜ン。

「へっ⁉️」

嫌な音が聞こえました。

ハチです。

しかも、こちらに向かって飛んできた。

「えっ、ちょっと待って……」

しかし、私には手と足しかありません。

網もない。

殺虫剤もない。

お客様がもうすぐ来る。

どうする?

そうこうしているうちに、ガラガラ。

お客様が、お泊まりのお部屋から出てきました。

そして、長い廊下を歩き始めます。

「どうしよう……」

頭の中は、完全にハチのことです。

しかし、そんなことはお客様には悟られてはいけません。

廊下の先にいるお客様に向かって、

「おはようございます!」

お子様には、

「おはよー!」

と、満面の笑み。

その笑顔の裏側では、

「ハチ、どこ行った?」

「まだいるのか?」

「お客様に向かって飛んでいかないだろうな?」

と、頭の中はハチのことでいっぱいです。

お客様は、長い廊下を少しずつこちらへ歩いてきます。

そして、ついに。

ハチが、私の足元にやってきました。

「……。」

踏むしかない。

靴下が汚れる。

でも、やるしかない。

お客様は、こちらに向かって歩いてきている。

ドン!!

やってやりました。

ハチを退治し、窓から外へ。

そして私は、何事もなかったかのように、満面の笑みで言いました。

「よく眠れましたか?」

「お食事、ご用意できておりますので、どうぞ!」

「ごゆっくりお食事を召し上がってくださいね!」

お客様には、何も起きていません。

朝の爽やかな時間です。

美味しい朝食を食べていただく時間です。

しかし、その数分前。

私は、朝食会場に向かうお客様の目の前で、ハチとの壮絶な戦いを繰り広げていました。

そして、何事もなかったかのように接客。

ふ〜〜〜。

セーフ!!

山の上で宿をやっていると、こういうこともあります。

虫が苦手な方にとっては、山の上はなかなか大変かもしれません。

でも、山の上に住んでいると、虫との共存は避けられません。

カブトムシやクワガタだけなら大歓迎なんですけどね。

できれば、そちらだけでお願いしたいものです。

まあ、そうはいかないのが山の上。

今日も私は、虫たちと戦いながら、お客様をお迎えしています。

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