山の上で商売を始めて、大変だったことは何ですか?
そう聞かれたら、私は迷わずこう答えます。
「仕入れです。」
料理でも、接客でもありません。
「仕入れ」です。
山の上で商売をしようと思っている人がいたら、ぜひ一度考えてみてほしいことがあります。
開業前、営業さんがこんなふうに来てくれました。
「この商品、使いませんか?」
「ご注文いただければ、その都度配達しますよ。」
「本当ですか?助かります!お願いします!」
そして、さっそく注文。
本当に届けてくれました。
「これなら安心だ。」
そう思ったのも束の間。
翌日、運送会社の方から一言。
「申し訳ありません。もうトラックでは怖くて登れません。」
……ですよね(笑)。
2トントラックでも、山道は大変です。
しかも配達先は、山の上の一軒だけ。
私だったら「町なかの狭い商店街より運転しやすそう」と思ってしまうのですが、配送会社からすれば話は別。
売り上げと時間、そしてコストを考えれば当然です。
だから思わず心の中で叫びました。
「じゃあ営業に来ないでくれ〜!(笑)」
もちろん冗談です。
営業さんも悪くありません。
結局、それからは全部自分で回ることになりました。
八百屋へ行って。
肉屋へ行って。
魚屋へ行って。
酒屋へ行って。
欲しい調味料はネットで注文。
「うわっ、送料高っ!」
宿泊施設なので、薬局でシャンプーやリンス、ボディソープ、子ども用の弱酸性ソープまで買いに行く。
クリーニング屋さんで使い終わったシーツや浴衣を返して、新しいものを受け取る。
気が付けば夕方。
「あっ、あれ買い忘れた……。」
そんな日は、本当に焦ります。
「どうしよう。」
「仕込み、いつやる?」
結局、夜中に厨房へ。
そして翌朝は朝食の準備。
こんな毎日が当たり前になっていました。
もちろん、予約が入らない日はめちゃくちゃゆっくり寝られます。
少し寂しいですが…、
それも山の上の宿の日常です。
そして、もう一つ。
これは本当に事業計画では見落としていました。
ガソリン代です。
山を毎日のように上り下りするので、燃料は想像以上に減ります。
タイヤも驚くほど早く減る。

一年もったことがありません。
車屋さんに驚かれます。
もうタイヤすり減ってるじゃないですか。
しかも車は二台。
当時の私は、売り上げや利益ばかり考えていました。
でも、毎日の仕入れにかかる時間。
山を何往復するのか。
ガソリン代やタイヤ代。
そんな現実は、一行も書いていませんでした。
だから今なら、過去の自分へこう言います。
「そこ、一番大事だから。」
「思いつけ〜!しっかりしろ〜!(笑)」
やってみないと分からないことは、本当にたくさんあります。
だからこの「山の上の経営録」では、パンフレットには載らない山の上のリアルを、これからも少しずつ書いていこうと思います。



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