山の上の経営録 ❘ ⑩〜暗示〜

ペンション経営

ペンションには、いろいろなお客様がやって来ます。

フレンチ、和フレンチ、BBQ、リーズナブルなお食事付きプラン、朝食のみのプラン、素泊まりプラン。

お客様によって、ペンションでの過ごし方もさまざまです。

その中でも、特にフレンチや和フレンチのプランでは、ちょっと緊張することがあります。

それは……

料理を食べ慣れている方が来た時。

そして、

たまにですが、

料理人の方が来る時。

こういう時、小心者の私は思うのです。

「料理、お口に合うかな……」

「この調理法で大丈夫かな……」

「変なところ、見抜かれないかな……」

……まぁ、ほとんど被害妄想です(笑)。

料理を仕事にして20年以上。

それなりに経験も積んできました。

それでも、相手が料理人だと分かった瞬間、急に自信がなくなる。

そこで私は、あることをします。

自分に暗示をかけます。

「俺の料理は、どんなに食べ慣れている人でも美味しい。」

「どんな料理人にも負けていない。」

「大丈夫。」

心の中で、呪文のように繰り返します(笑)。

もちろん、料理の世界に「上には上がいる」ということは、十分承知しています。

自分より凄い料理人なんて、いくらでもいます。

それでも、その時だけは違う。

自分が一番だと思う。

そう思わないと、料理を出す手が縮こまってしまうからです。

料理というのは不思議なもので、自信がないまま作ると、なんとなく自分でも納得できない。

だから、料理を出す前だけは、

「俺が一番!」

くらいでちょうどいい。

……実際は、そんなに肝っ玉は大きくありません(笑)。

むしろ、子供の頃から小心者です。

だからこそ、暗示が必要なのかもしれません。

そして、食事が終わります。

「美味しかったです。」

「どこで修行されていたんですか?」

「このスパイス、何ですか?」

そんな言葉をいただくと、

「……よかった。」

心の中で、そっと力が抜けます。

さっきまで、

「俺の料理は誰にも負けない!」

なんて言っていたのに、

お客様から「美味しかった」と言われた瞬間、

ただの小心者に戻ります(笑)。

でも、考えてみれば、これは料理だけの話ではないのかもしれません。

経営だって同じ。

新しいことを始める時も、

「こんなのやって意味あるのかな?」

「誰か来てくれるかな?」

「本当にこれで大丈夫かな?」

そんなことを考えてしまいます。

それでも、やる時には、

「これでいい。」

「きっと大丈夫。」

と、自分に言い聞かせる。

もしかすると「暗示」というのは、

自分を過大評価するためのものではなく、

自分の力をちゃんと出すためのものなのかもしれません。

料理を出す直前の私は、

今日も自分に暗示をかけます。

「俺の料理は、どんな人が来ても大丈夫。」

……と。

そして、お客様の食事が終わる頃には、

「美味しかった」

の一言を待っている、いつもの小心者に戻っています(笑)。

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